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2010.01.12(Tue)

もう景気はよくならない(5) 

●このシリーズの前回の記事において、私が金利には富を偏在させる特質があると言ったのを聞いて、こう思った人もいるかもしれない。

「極端な仮定だ。外部経済から完全に閉鎖され、貨幣の量も一定のまま変わらない経済社会などあり得ない」

確かにそうかもしれない。この世界で、外部経済と何のやり取りもない閉鎖経済を敷いている国はない。あの北朝鮮ですら、外国と貿易をしているのだ。

そして、こうも考えるかもしれない。

「金利によって掠め取られるカネがあるのは確かだが、生産を活発にして外部にモノを輸出し、経済発展を続けて、その金利負担を上回る収入を上げ続ければ、総需要は拡大し続けるはずだ。少なくとも極端な貧困は生まれないだろう」

これも一理ある。後述するが、日本は似たような仕組みで戦後世界経済の優等生になったのである。同じことをもう一度やれば成功するのではないか、と思う人もいるかもしれない。

しかし、私は、そんなことをしても本質的な問題点は何も克服されないと断言する。

以下に理由を述べるが、前提としてまず、そもそも「経済発展」とは何なのか、きちんとその意義を整理しておきたい。

たとえば、ある国の国民の相当多数が洗濯機やテレビといった家電製品を一通り揃え、それなりに快適な生活ができるようになったという状況を考えてみよう。日本でも見られた「経済発展」の一場面である。

上記のような生活を送るためには、まず国民一般に家電製品を購入できなければならない。

そのために必要なのは「家電を作れる生産設備と原材料」(国内生産する場合)もしくは「輸入のための外貨」である。しかし、日本のような近代工業用資源が乏しい国だと、結局原材料も輸入が必要である。そうなると、結局経済発展をするには、外貨が必要だということになる。

また、家電を使うには電力を供給する仕組みが要る。発電所や送電設備といったインフラと、エネルギー源となる資源が必要だ。インフラを独自に構築・運営できる国はわずか(日本は幸運にもその中の一つ)で、だいたい外国にカネを払ってノウハウゆ買うことになる。しかも、エネルギー資源は石油や石炭であり、これまた持たざる国が圧倒的多数だ。結局資源国から買うしかない。

そうなると、経済発展の第一条件は外貨の獲得だということになりそうだ。

電化製品に話を戻すと、いくら作っても国民がそれを購入できないようでは、企業が売り手を見つけられなくなってしまう。だから、社会政策の整備(たとえば年金や福祉の拡充)によって、国民がカネを持つことができる条件を整えなければならない。そうすることで、内需が形成され、経済活動がより活発になる。

結局、「経済発展」を定義すると、

外貨の獲得によって総需要が拡大し、その国の一般的な物的条件が拡大すること

になりそうである。

しかし、まさにこの定義の中に、大きな罠が潜んでいるのである。

確かに、このような経済発展が続けば、総需要は流入した外貨(他国の富)の分だけ拡大し、それと比例する形で企業や個人の手にする収入が増え、金利を払ってもなお補えるほどの豊かさを国民の大多数が享受できるかもしれない。

しかし、そのためには一つ、絶対に欠かせない条件がある。継続して外貨を獲得し続けることである。言い換えれば、その国だけが儲かり、他国から生き血を吸い取り続けられなければいけないということだ。

しかし、これは口で言うほど簡単ではない。なぜなら、他国もまた経済発展を望み、その他の国々から外貨を獲得しようとするはずだからだ。そうなると、必ず競争が生じる。競争に敗れた国は、金利の負担を上回る収入を得られずに、やがて経済発展レースから脱落していくだろう。

そうして淘汰が進むと、何が起こるのか。経済発展を無理にでも続けるために、生き残った経済強国同士が、他国と衝突を始めるのである。そうしなければやがて国内の企業(有利子の借入金や配当付の資本金を元に活動している)や政府(国債を発行して財源に充てている)は、「金持ち」への金利の支払いで潰れてしまう。

二度の世界大戦は、そうやって起こったのだ。

国内経済だけでなく、世界経済を一つの大きな経済循環のプールだと考えれば、それが無限でないということはすぐに理解できるはずだ。一国の経済に総需要があるように、世界のも総需要があるのである。経済発展競争は、その総需要の奪い合いを招き、やがて深刻な国家間対立を招く。

「持続可能」だとか「永続的」な経済発展などあり得ないのだ。経済学だとか最先端の経済情報だとかを頭に入れていると、そういう当たり前のことが分からなくなる。

では、戦後の世界経済はこのような事態をどうやって回避してきたのだろう。簡単な話だ。数多くのメンバーの経済発展と引き換えに、一方的に損をする役割の国を作った。それがアメリカだったのだ。

戦後の各国の経済発展モデルは非常に単純だった。要するに、アメリカ相手にものを売り、ドルを手に入れることだ。経済発展したいならアメリカに従ってドルを稼げばいいので、悩む必要がほとんどなかった。地政学的な判断力を欠いたままやってきた日本が発展できたのは、そういう単純な構図のおかげだった。

それでも経済発展を望めない地域(アメリカの海上交易路にアクセスが困難な内陸国)は、あらかたソ連が引き受けてくれた。巨大な生産力を産み出しうる中国も鎖国に近い状態を保っていたので、各国はデフレの危険をほとんど考慮せずに経済発展を目指せばよかった。

しかし、このモデルはアメリカ一国がこけたら、もっと広く言えばアメリカが政策転換をしたらおしまいだということはすぐに分かるだろう。実際そうなった。詳しくは、●こちらの記事に書いたとおりだが、簡単におさらいをしておこう。

アメリカで1970年以降取られた政策は以下の通りである。

1.ニクソンショック(ドル金交換停止措置)
2.ニクソン訪中と米中国交回復
3.二次産業の海外移転
4.401K(確定拠出型年金)導入
5.証券税制の優遇・証券取引の規制緩和
6.FFR(日本で言う公定歩合)を高水準で設定



これらの措置で、アメリカはGMやフォードに象徴される製造業の国から、金融の国に変貌を遂げた。国内産業は徹底的に破壊され、その過程でリストラが進んだために中産階級は没落した。アメリカという国全体のGDPは増大したにもかかわらず、貧困層はどんどん増えた。

そして、その流れは90年代以降他の先進国に飛び火した。西ドイツは共産国家である東ドイツとの統一によって疲弊し、東欧各国へ生産拠点を次々移転し、それでも飽きたらず移民を大量に導入した。そして、日本はバブル崩壊後、消費税増税やゴーン改革に代表される大企業のリストラ、そして自民党政権の構造改革路線によって完全に没落した。イギリスやイタリアなど言わずもがなだし、韓国のような新興国も経済危機をきっかけにメチャメチャにされた。

こうして見てみると、まず収奪の対象になったのは世界最富裕国であったアメリカの国内経済であり、それが順次他の国に「応用」されていったようにも思えてくる。各国は冷戦期に対米貿易でため込んだ富を、あらかた放出させられてしまった。

当然のことだが、そんな時期にも金利や配当といった形で、「金持ち」のもとにカネが集積する仕組みは機能し続けた、それどころか、グローバルスタンダードなどと称して、上記のようなアメリカを狙った金融至上経済への転換をっ各国は進んで行ったのではなかったか。日本の金融ビッグバンなど良い例だ。

だから、結局経済発展を目指した競争は止まることなく、今の今まで来ているのである。

別の言い方をすれば、ニクソンショックの辺りでもうすでに世界経済の総需要は頭打ちになっていて、それ以降は経済発展を望む各国が盛大な共食いを始めたということでもある。90年代以降、そこに中国まで殴り込んできたのだから、旧来の先進国が没落しない方がおかしいのだ。

もう少し、この経済発展がもたらすものについて論じたい。(続)

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EDIT  |  22:51 |  経済とグローバリゼーション  | TB(0)  | CM(5) | Top↑

Comment

●アメリカを生贄にしたわけですね。

 いつも分かりやすいブログで楽しく読まさせていただいています。ところで
>上記のようなアメリカを狙った金融至上経済への転換をっ各国は進んで行ったのではなかったか。
 日本の金融ビッグバンなど良い例だ。

この部分が少し分かりずらいんですが、アメリカが世界を金融市場経済に巻き込もうとして各国に
金融ビッグバンを要求したと言うことではないでしょうか?勘違いかな?それが00年の省庁再編では
ないかと思うのですが。減価する貨幣とか地域通貨とか言われていますが、それって資本主義を脱却
させようとする資本家の企みなのではないかな?あくまでも主導権は資本家にあるような気がします。
gbc | 2010年01月13日(水) 11:06 | URL | コメント編集

●>>gbcさん

>アメリカが世界を金融市場経済に巻き込もうとして各国に
>金融ビッグバンを要求したと言うことではないでしょうか?

  もちろん、そういう側面があるのは確かです。
  しかし、その頃にはすでに日本に「金融で楽して金を儲けることがいいことだ」という価値観が十分に広まっていたということも見逃してはなりません。きっかけは、バブル経済です。あそこで麻薬を嗅いでしまった人びと(当時すでに金を持っていた団塊世代など)が、その後ファンドに投資したり、FXをやったりしているのです。
  そこに来て、彼らが、「株主利益の最大化」だとか「株価に配慮する企業が良い企業」という考えで、アメリカ発のグローバルスタンダードを受け入れたという側面もあるわけですね。
  注意すべきなのは、上から操り人形の糸を引いている連中は、本格的な攻撃を始める前に、その国や地域の価値観を誘導して、抵抗が少なくて済むように慎重に準備をしているということです。今までと違うことをメディアが煽り始めた(たとえば、日経新聞は今農業を儲かるとか将来性があるとか煽っている)としたら、、今後日本で何が起きるかの判断材料になるでしょう。

>減価する貨幣とか地域通貨とか言われていますが、それって資本主義を脱却
>させようとする資本家の企みなのではないかな?

  これは、残念ながら的が外れています。
  資本家、このシリーズで言うところの「金持ち」の力の源は、貨幣の蓄積です。それを元手に利子や配当という形で国民経済からカネを吸い上げるわけですから、通貨が減価したら彼らはおしまいでしょう。
  げんに、オーストリアのヴェルグルという町で第二次大戦前に減価通貨を導入したのに対して、オーストリア中央銀行が圧力をかけてやめさせたという話があります。通貨の一元化と言えば聞こえがいいのですが、政府も「金持ち」の一種、もしくは「金持ち」の道具だと考えれば、当然そういうことになるんですね。
  不況下でも業績を伸ばしているスゴイ企業、とかマスコミがくだらん特集を組んだりしますが、ああいう人たちは「金持ち」の使いっ走りに過ぎません。
  そういう人たちを「勝ち組」と祭り上げ、ハケンやワーキングプア、ブラック企業従業員などを「負け組」とカテゴライズして、対立を煽ってきたのが21世紀に入ってからの日本なんですね。本当の「金持ち」は裏で笑ってますよ。「猿芝居を見せておけば安泰だ」と。
  日の丸君が代の話あたりも、そういう猿芝居の一つでしょう。
ろろ | 2010年01月13日(水) 12:31 | URL | コメント編集

いつも拝見させていただいております。
経済コラムマガジンの作者をはじめとした積極財政主義者の
中には、名目GDPがここ十年マイナスかあるいはゼロで推移しているのは、
日本と北朝鮮くらいしかないと言っております。
実際、リーマンショック前までは、新興国は当然ながら、
アメリカも欧州を景気が良かったと。
世界全体が貧しくなったのではなく、日本の一人負けのような印象を
私はもっていますが、いかがでしょうか。
名無し | 2010年01月14日(木) 12:18 | URL | コメント編集

●名無しさま

産業の生産性が高い国が最初にデフレに陥ります。
参考:
“強い国際企業”を抱える日本とドイツが「デフレ不況」に陥る経済論理
http://sun.ap.teacup.com/souun/377.html
http://sun.ap.teacup.com/souun/378.html
早雲 | 2010年01月14日(木) 21:04 | URL | コメント編集

●>>名無しさん

>世界全体が貧しくなったのではなく、日本の一人負けのような印象を
>私はもっていますが、いかがでしょうか。

  早雲さんからご指摘いただいたことがまず第一としてあります。日本のような二次産業の生産性の高い国では、慢性的な供給過剰状態が生じやすい傾向があります。
  また、それと軌を一にして、総需要を切り詰めるような政策が「カイカク」と称して行われています。地方への補助金削減、社会保障負担強化、もっとも大きいのは消費税の税率アップでしょう。ここに生産性上昇が加わるのですから、効果は強烈です。
  以前のこのブログであれば、これらは全て自民党と公明党、それを操るグローバリストの悪行だということで片付けていました。
  確かにそういう面はありますし、アメリカと中国にとって日本がデフレでいてくれるほうが安全だというのも大きいのですが、今回記事に書いたように、結局近代経済システムでは、何をやってもすぐに総需要が頭打ちになり、「不況」や「恐慌」をテコにして、今まで分配したものを収奪することでしか「金持ち」がその経済活動を行えないというのが一番大きな要因でしょう。
  次回くわしく述べますが、だからといって財政支出を赤字覚悟で行っても、そもそもカネの回る仕組みがおかしいのですから、結局は金持ちが総取りし、政府の赤字が累積することになります。
  つまり、現行のシステムで何をやっても、最終的には「無駄」なのです。

ろろ | 2010年01月14日(木) 22:28 | URL | コメント編集

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