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2011.07.30(Sat)

「官僚無答責」の原則、いまだ健在なり 

東日本大震災、及び原発事故への政府の対応を見て、私の価値観が完全に変わったものがあります。それが、「官僚」というものに対する信頼です。

以前のブログ記事を読んでいただくと分かりますが、私は基本的に日本の官僚制度に対して、かなり好意的でした。外国の政府と比較すれば、まだかなりマシな働きをしていると思えたからです。そう思っていた背景には、外資や経団連のようなカネ持ちこそが日本の国家意思を歪めている元凶であり、官僚は土着勢力として、むしろそういう流れに抵抗しているという基本的認識がありました。

しかし、どうも、そんなのはただの幻想に過ぎなかったようです。今回紹介する記事は、そんな私の幻滅をさらに確固たるものとするに十分でした。

四国電力でも「やらせ」質問 中電に続き保安院の要請で
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2011073090000045.html

 中部電力浜岡原発(静岡県御前崎市)のプルサーマル計画に関する国のシンポジウムで、経済産業省原子力安全・保安院から事前に質問や意見表明を促す「やらせ」の要請があったとされる問題で、四国電力は29日、保安院から同様の要請があったことを明らかにした。

 四電によると、保安院は2006年6月に開かれた伊方原発(愛媛県伊方町)に関する国主催の「プルサーマルシンポジウム」で、事前に四電に「議論を活発化させるため、多くの方々に参加を呼びかけ、質問や意見が多く出るようにしてほしい」と要請

 四電は社員や関連会社員らに参加を呼びかけ、29人には質問の例文を示すなどした。発言者15人のうち10人は四電が依頼した人だった。シンポは、ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料を使うプルサーマル計画について、必要性や安全性への理解を求めるために開かれ、実際に原発の安全性に理解を示す発言もあった。

 保安院の森山善範原子力災害対策監は記者会見で「大変申し訳なく思う。第三者委員会を設置して中立的な立場から調査する。保安院としては全面的に協力する」と述べた。8月末までに結果をまとめる。

 やらせ質問は、九州電力による取引先などへのやらせメール問題を受け、同省資源エネルギー庁が電力会社に指示した調査の一環で判明。調査対象の7社すべてが社員らにシンポ開催を周知したり、参加要請していたことも明らかになった。

 「やらせ」の要請をめぐっては中電が同日、浜岡原発に関して2007年8月に開かれたプルサーマルシンポジウムで、保安院から事前に依頼があったと公表。発言の文案をいったん作成したが、問題があると判断し、最終的に依頼を拒否したと明かした。


さて、引用記事を見て、私が色を変えて強調している部分が妙だな、と、思いませんでしたか?

そこで、みなさんに考えてもらいたいのです。私はなぜ「保安院が」という部分を繰り返し強調したのでしょうか。





私が、「保安院が」という箇所だけを強調したのは、このような表現の仕方に、まさに日本国政府の官僚制度の悪弊が凝縮されていると思ったからです。その悪癖とは、


「組織を隠れ蓑にして、官僚個人が全く責任を負わない」


ことです。

考えてもみてください。国家機関が、直々にやらせを頼むのです。文書で依頼して済むはずはありません。電話なり、直接会うなりして、誰かしら保安院の側から、電力会社に対して具体的な要請をした人物がいるはずです。しかし、その人物が誰か、国民には一切分かりませんし、マスコミもそういう情報を暴露しようとしません。

これが、もし病原性大腸菌を客に感染させた企業だったら、どうなっていたでしょうか。社長や営業部長が記者会見を開かねばならず、汚染された生肉なり何なりを提供するという経営判断をした人物がだれか、徹底的に追及されるはずです。ところが、国家公務員に限っては、絶対にそういう事態が生じません。

たしかに、行政手続法なんかを見ると、行政指導はその責任者を示さなければいけない(35条1項)なんていうことが、もっともらしく書いてあります。だから、この場合、誰がやらせをやれと指導したか、電力会社は知ろうと思えば簡単に知ることができたはずです。また、マスコミも、そういう点を電力会社に対して突っ込むことができるはずです。しかし、そういうことには絶対になりません。

もちろん、マスコミが記者クラブのような互助会を作り、官僚と癒着しているというのもあると思います。しかし、本質はそういうところにあるのではなく、「官僚とは、表に出てきて責任を取らないものだ」という価値観が、この国にしっかり根付いてしまっているからなのではないでしょうか。

みなさんは、戦前に、こんなことがあったのをご存じでしょうか。

Wikipedia「太平洋戦争」より

宣戦布告遅延

アメリカ東部時間午後2時20分(ハワイ時間午前8時50分)野村吉三郎駐アメリカ大使と来栖三郎特命全権大使が、コーデル・ハル国務長官に日米交渉打ち切りの最後通牒を手交した。

この文書は、本来なら攻撃開始の30分前にアメリカ政府へ手交する予定であったのだが、駐ワシントンD.C.日本大使館の井口貞夫元事官や奥村勝蔵一等書記官(2人ともその後外務事務次官を務めた)らが翻訳およびタイピングの準備に手間取り、結果的にアメリカ政府に手渡したのが攻撃開始の約1時間後となってしまった。その為に、「真珠湾攻撃は日本軍の騙し打ちである」とのアメリカのプロパガンダに使われることとなった。

(中略)

真珠湾攻撃が宣戦布告を伴わない奇襲攻撃という認識が現在でも一般的であるが、外務省がパープル暗号で送った命令書[14]では当初は攻撃開始30分前の宣戦布告を予想していた。しかし、東京から日米交渉打ち切りの通知を告げる内容の電文が送信された際、日本大使館員全員が宿直も置かず、大使館を空にして同僚の送別会を行っていた事[15]など、諸事情によりワシントンの日本大使館一等書記官奥村勝蔵の英訳親書のタイプが大幅に遅れ、攻撃開始時刻に日米交渉打ち切りの通知が間に合わなかった。

この件については、誰も処分されておらず、外務省はこの遅延に対し調査委員会を設立し調査を行ったが、調査結果は長らく公表されなかった。1994年11月20日、外務省は当時の調査委員会による調査記録「昭和16年12月7日対米覚書伝達遅延事情に関する記録」を公開し、公式見解として、大使館書記官の不手際により、宣戦布告が遅れたことを認めた。


なんだ、そんなことか、と思ったあなたは、もうすでに「日本病」に感染しているかもしれません。私は、この部分を見て唖然としました。

>2人ともその後外務事務次官を務めた

>この件については、誰も処分されておらず


信じられますか。「日本は卑怯なだまし討ちをした」と言われる直接のきっかけを作った部署の中で、誰も処罰されていないのです。しかも、大失態を犯した張本人の外務官僚二人は、戦後、官僚としてはトップの地位に上り詰めてまでいるのです。

陸軍の兵士が、「生きて虜囚の辱めを受けず」などと言われ、敵に捕まったら自害しろと教育されており、ルソン島で敵と交戦して不時着した飛行機の乗組員が、単機の昼間偵察という自殺行為を命じられていたような時代です。国家の浮沈に直結する問題で失態を犯せば、厳しい処分が待っていると、誰もが思うはずです。

しかし、日本の官僚制度では、それが全く逆なのです。より高度な責任を負っているはずのポジションに就けば、責任を問われることがないのです。それどころか、失敗をした直後には、その責任者の名前すら国民の前に曝されることがありません。

この点では、戦前も戦後も、全く変わっていません。戦前は、「国家無答責」などと言って、政府が国民に対して損害を賠償するなどとんでもない話だ、という、信じられないような論理がまかりとおっていましたが、今も昔も「官僚無答責」なのは同じなのです。

もちろん、事務処理を的確に行うという点では、他国の官僚よりも日本のそれの方が優秀ではあるのでしょう。しかし、こういう肝心の時に、日本の官僚制度には、誰がどうやって責任を取るかという仕組みが全くと言っていいほど存在しないのです。

これでは、震災や戦争のような有事に、有効な手だてを打てるわけがありません。文科省の「子供は白血病の労災認定が受けられる4倍の量被曝しても大丈夫」という方針のように、ただ自分たちの利害関係人たちの便宜を図ることしかできないのも当然です。

これが、果たして「政治主導」というものによって覆すことができるものなのか(小沢一郎にきけば、おそらく「可能だ」と答えるだろう)、それとも、官僚制というシステムの中では避けることができない宿痾なのか、正直いまの私には判断が付きかねます。

ただ、この国では、国民の生命に重大な損害をもたらしうる政策を、実質的に決定しているにもかかわらず、組織の名前を隠れ蓑にして、首にすらならずにのうのうと生きている者たちが沢山いるのだ、という事実は、きちんと受け止めなければならないと思います。

それとともに、「日本の官僚は他国に比べて優秀だ」などという、根拠のない幻想を捨て去り、我々自身が自分の生活と、それを支える経済社会状況に対して、感覚をとぎすませていくことが大切でしょう。震災と原発事故を経た我が国では、もう「お上に生命や財産を丸投げする」ことは自殺行為だということが分かってきたのですから。


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