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2010.02.04(Thu)

マイケル・ジャクソン風の影絵が語るもの 

人形劇の人気者、いまや孫悟空よりM・ジャクソン=中国の伝統文化に及ぶ欧米文化の波―SP紙
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20100204-00000005-rcdc-cn

2010年1月31日、シンガポール紙ザ・ストレーツ・タイムズは「欧米文化にさらされる中国文化」と題した記事を掲載した。2月1日付で環球時報が伝えた。

記事は冒頭で、「中国が台頭、米国は衰退」しているのは経済面だけだと綴った。文化面では欧米文化が続々と中国に流入しており、中国の固有の伝統文化もその影響を受けつつある。

四川省の成都市に住む周さんは、伝統的な皮製の人形を使った影絵芝居「王皮影」に長年携わっている。しかし、彼の上演する芝居で観客の人気を呼んでいる登場人物は西遊記の孫悟空でもなければ、猪八戒でもない。マイケル・ジャクソンの曲に合わせて踊り、ムーンウォークを披露する西洋風のキャラクターが注目を集めるのだ。

周さん自身、「伝統的な影絵芝居など退屈で面白くない」という。こうした風潮は四川省や影絵芝居に限らず、中国全土で一般的なものとなっている。他国の侵略行為は何も武力による戦争とは限らない。戦争よりも静かで、より効果的な“文化の侵略”が、われわれ東洋人の日常生活で密かに進行していると記事は結んでいる。



  中国を見ていると、なにか以前(一部では現在進行形)の日本を思い出します。

  明治以降我々は「西欧化=進歩」と信じて物質文明を発展させてきました。カネをかけようが借金をしようが、「努力」をすればカネが得られて全てが解決すると疑いませんでした。今でも、政府が再分配を強化して、GDP的な発展をすれば問題は全て解決するという風に主張しているブログがあったりしますが、そういうところの人たちも、基本的には明治維新以降つくられたものの考え方に乗っかっているといえます。
  しかし、最近はそういう風潮が反転しつつあるのを感じます。農業を志す若者がぼちぼち出始め、家庭菜園のセミナーは結構な盛況です。経済的な事情があるにしても、新車を無理して買うより自転車で楽しむ人も多くなっています。伝統的な文化に目を向ける人が少なくないことも、いろいろな場面で目にしています。
  なんでそういう流れが出てくるのかなと思いましたが、競争や「努力」(=自分の商品価値を向上させる苦役)をするのに、みんな疲れてしまったのかもしれません。私が●この記事のような視点を持つに至ったのも、多分時代の雰囲気がそういう風になってきているからでしょう。
  経済的な発展が望めなくなっているのは、一面では不幸なことかもしれませんし、生存すら危うくなっている人が少なくないという状況には手当が必要なのでしょう。しかし、単に景気が悪いとか、これ以上発展は臨めないというのが、自分達が何者か見つめ直す機会になるとしたら、悪いことばかりではないと思うこともあります。

  他方、中国は欧米やかつての日本の発展コースを「速習」して今の地位を築きました。
  日本は基本的に敗戦直後の対外借り入れと、総動員体制をベースに発達した工業力を民需にスライドさせることで対米黒字を稼いで、数十年掛けてGDPを世界2位にまでしました。
  しかし、中国はそうではなくて、80年代後半から今までの間、行き場の無くなった世界の投資マネーを一気に受け入れ、外国の技術や生産システムを臓器移植するようにして経済発展をしてきました。
  中国には低所得層が多いため、消費財が全国民に行き渡っていません。貿易黒字を国民の購買力に転換する仕組みを作れば、これからまだまだものが売れるでしょう。日本を初めとした先進国では今後デフレ以外の展開は考えにくく、安いチュウゴク製・チュウゴク産の需要がなくなることはありません。これからも「発展」は続くでしょう。

  しかし、それに比例して、中国は自分を見失い、狭い価値観に自分を追い込んでいっているように見えてなりません。その価値観とは、欧米的物質文明です。
  マイケルジャクソンの影絵が受けるのも、彼がアメリカのスターだからであり、決して美意識の発露ではありません。
  上で取り上げた記事の男性の発言からも分かるように、どうも物質文明が進歩すると、その社会にあった伝統的な文化は「つまらない」だの「刺激がない」だのといった理由で切り捨てられていく運命にあるようです。以前からこのブログで言っているように、「人間の精神のあり方を決めているのは、その人や集団が置かれている物的条件である」という定理が、ここでも当てはまるように思えます。
  日本人の場合、そういう発展レースやそれに伴う価値観の変化に疲れたら、戻っていく場所がいろいろあります。私は結構旅行をする方ですが、昔は中高年の人しか見かけなかった神社やお寺に、若い人が参拝しているのを見かけます。神道のように、商業化されていない伝統文化というのも、戻っていける場所の一つです。国粋主義や天皇に対する盲目的崇拝はまさに明治維新以降の欧米化の産物ですが、そういう人たちの中にも、伝統的な文化に良い意味ではまってしまう人も少なくありません。

  では、中国はどうなのかというと、私は正直「やばいんじゃないか」と思っています。

  中国では共産党が天下を取って以来、基本的に唯物論教育ばかりやっています。「神などというものはいない」とか「マルクスや毛沢東の共産思想こそが最も進歩した考え方だ」という北朝鮮っぽい側面も確かにあるのですが、それ以前にとにかく中国の子供は昔から科学の進歩や物質文明の発展こそが最上の価値だということを叩き込まれています。
  小平の「改革開放」以降、中国で拝金主義がはびこったのは、急激に経済発展したとか、昔から中国では戦乱が絶えなかったとかいう歴史的背景もあると思うのですが、「とにかくモノやカネこそが幸せの尺度だ」という教育を、毛沢東の時代から受けていたことが一番大きな原因ではないかと思うのです。この辺は、日本の一方的な知識の伝授が優先される教育が、戦前の忠君愛国による洗脳をより功利主義寄りにスライドさせたのと事情がよく似ています。
  日本の場合は、明治維新による文化破壊(廃仏毀釈や神道合祀令など)があっても到底破壊しきれないほど伝統的なものが強かったことや、天皇家が近代化のシンボルでありながら伝統の守り手として機能したことなどがあり、物質文明に染まる以前の記憶を取り戻す場所がまだ残っています。
  しかし、中国では共産党政権になってから、宗教的な組織は徹底的に弾圧され、民間信仰も教育で否定され、漢方薬や気功のようなカネになりそうな文化はみんな政府の教育研究機関が「合理的に」管理してしまっています。

  経済的に行き詰まった時、彼らに戻っていく場所があるのでしょうか?

  急速な「発展」の弊害は、もうすでにいろいろな所に現れています。不況のどん底にある日本以上にうつ病の患者が多い(●この記事を参照)ことなど見ても、日本以上に「近代的」になりつつあるのかもしれません。

  昔は中国というと私の嫌いな国ナンバーワンであり、今でも正直中国人の行動様式や、中国政府の高圧的な言動にはむかつくことがしばしばです。
  しかし、最近どうも私の中には、「中国はかわいそうだ」という思いが強くなってきています。
  欧米の仲間になりたくて背伸びをして、一度は敗戦し、今度はカネの力で世界のトップに立とうとしたら、巧妙にハシゴを外され、地べたに叩きつけられた、というのが、我が国の明治以降の歴史です。そして、日本が急降下していくときは、いつもどこかの国がカネや利権をかっさらっていってしまうという展開の繰り返しです。
  中国の人びとが学ぶべきなのは、「日本のように豊かで文明的な国になろう」というのではなく、「カネやモノに狂って自分を見失った日本のようにならないでおこう」ということなのです。
  しかし、中国の共産党政権もまた、明治維新の日本同様に、トップダウンで近代化を推し進めることをレゾン・デートルとしている以上、そういう流れを覆すことはないでしょう。残念なことですが、行くところまで行くしかないようです。
  日本としては、中国が「行くところまで行った」時に、どのように危機管理をすべきか、そのことを考えておく他はありません。GDP2位、人口13億の国が崩壊すれば、辛亥革命や、国共内戦の比ではない混乱が起こるでしょう。それに備えて、締めるべきところは今から締めておき、相互依存をなるべく少なくしていくようにすべきです。
  今の政府や官僚に、そういうことが出来るかは分かりませんが・・・。

  最後に、私が尊敬している中国の思想家の言葉を引用しておきます。

  知人者智 自知者明 勝人者有力 自勝者強 知足者富 

  (人を知る者は智、自ら知る者は明なり。人に勝つ者は力あり、自ら勝つ者は強し。足るを知る者は富む。)

>知足者富

  この言葉の意味を、我々は今一度深く噛みしめるべきでしょう。
  中国の人びとにも、そうであってもらいたいものです。


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EDIT  |  22:42 |  中国・朝鮮  | TB(0)  | CM(1) | Top↑
2009.09.15(Tue)

韓国の経済を見ることは、我々自身を知ることである(3) 

  ●前回の記事で、結局景気を良くする、すなわち総需要を増やすには、

・賃金をアップする

・政府が財政支出を行う

・減税する


  この三つしか方法がないということを述べました。では、この三つが果たして可能なのかどうか、韓国の社会状況に照らして考えてみます。
  まず、「賃金アップ」です。これは、理論上簡単にできる方法があります。「非正規雇用の規制」です。
  日本でも近年企業が正社員を削り、派遣やパートといった非正規効用の比率を増やしています。韓国も、よく似た状況になっているようです。

日本に先行、韓国の格差問題~悩める「88万ウォン世代」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/572

 『韓国ワーキングプア 88万ウォン世代』(明石書店)という本がこのほど発売された。2007年の韓国でベストセラーとなった経済学者・禹熏(ウ・ソクフン)氏らの著書の邦訳。88万ウォンは、韓国で大卒の非正規労働者の月給を指す。当時のレートで換算すると約10万円、今なら6万円強に相当する。

 昨年、日本でも小林多喜二の『蟹工船』が若者の間で持てはやされたが、「格差社会」の深刻化では韓国がこの10年余り、日本に先行している。「88万ウォン世代」の行動は2007年韓国大統領選で李明博(イ・ミョンバク)氏の勝因ともされ、日本にとって決して他人事ではない。

  (中略)

 韓国社会で格差拡大のきっかけとなったのが、1997年のアジア通貨危機(同国では「 IMF危機」と称する)。危機克服に向けて構造改革路線が採用され、経営困難に陥った企業による従業員の整理解雇や、賃金コスト圧縮を目的とする派遣労働制が解禁された。こうした政策は企業収益の回復に寄与する半面、非正規労働者の急増を招いた。非正規労働者が労働人口に占める比率は、2001年の27%から2004年には37%へ上昇していた。

 それと同時に、若者の就職難がクローズアップされた。2004年には一時、30歳未満の青年労働者の失業率が 9%台に乗り、労働者全体の 3%台に比べて著しく悪化。正社員就職という希望がかなわず、相当数が非正規労働者になった。

 当時、ソウル支局には日本語を専攻する大学生が何人もアルバイトに来ていたが、一様に「就職活動が大変」とこぼしていた。中には、非常に優秀だけど、「期限付き」の仕事にしか就けなかった者もいる。ちなみに韓国では、就職できない学生は「とりあえず」大学院へ進む傾向が強い。正確な数字は不明だが、日本より多いように思う。

 当時の韓国は、「構造改革」→「労働市場の規制緩和」→「企業の人件費削減」→「非正規労働者の増加と若者の就職難」。小泉政権以来の日本の歩みとそっくりなのだ。

 ソウル赴任前、霞が関で内閣府を担当していた。竹中平蔵経済財政相(当時)の記者会見に出席しては、金融機関について「日本は(外資導入で危機を乗り越えた)韓国を見習うべきだ」という趣旨の発言を何度も聞かされた。しかし、隣国を参考にすべきという点では、雇用問題も然りなのだ。

 2002年12月の大統領選では、人権派弁護士出身でいわゆる「左派」の盧武鉉(ノ・ムヒョン)氏が、保守系候補との激戦を制して当選した。勝敗を分けたのは20~30代の有権者の支持。拡がる格差を解消し、「弱者救済の政策を断行してくれるはず」との期待から、若い世代が盧氏を大統領に担ぎ上げた。

 しかし、盧政権時代にむしろ格差は拡大。ソウルを流れる漢江の南にある高級住宅地では、富裕層が競い合うように住み、複数のマンションを購入する利殖ブームが起こった。半面、ソウル駅や市役所前の地下道で眠るホームレスが目に見えて増え、若者の雇用情勢も一向に好転しなかった。

 失望した若者の間では、堅実で保守的な考え方が広がり始めた。「88万ウォン世代」の特徴は、「政治的には保守」。2007年12月の大統領選では前ソウル市長の保守系候補・李明博氏に票が流れ、李氏圧勝の原動力となった。

 とはいえ、李大統領への期待が「再度の失望」に変わるのも早かった。就任直後の2008年春、米国産牛肉の輸入再開をめぐる政府の対応に批判が集中。 5月には一部世論調査で政権支持率が10%台に落ち込み、その後も人気低迷が続いている。

 国民が性急に過ぎる気もするが、昨夏、韓国政府の元高官は「多くの人が閉塞感に苛立っている。生活が良くならないので不満が募っている」と指摘した。今年の正月、ソウルで再会した韓国の知人も「大学生の半数は満足な就職ができない」と話していた。世界的な景気後退に伴い、若者の就職事情は一段と悪化しているようだ。

 気になるのは、「就職は自分の責任」と考える傾向だ。ソウル特派員時代、アルバイト学生が英会話学校などに通っていたから、「なぜ、そんなに熱心に勉強するのか」と尋ねてみた。すると大抵、「良い就職をするため」という答えが返ってきた。心中を察すれば、「良い就職」ができるかどうかは、努力の程度に応じた結果。すなわち、「自己責任」ということなのだろう。

 若者も無論、現状に対する不満は小さくない。「制度や仕組みを変えてほしい」という気持ちはあるのだが、それに執着はしない。接していた韓国の若い世代から、そうした空気を感じた。政治に期待はしてみるが、裏切られたとしても、「ああ、やっぱり。じゃ、今の仕組みの中で頑張るか」というのが、韓国の真面目な若者の姿なのだ。

 「負け組」入りが自分の責任となれば、弱者を救済しようという政策の充実は期待できない。「自己責任」の考え方が社会に定着すると、いったん「負け組」となった者が逆転するのは難しくなる。日本の状況もこれに似てきているのではないか。

 日本で社会問題化した非正規労働問題に関しては、韓国政府も対応に苦慮している。盧政権時代の2007年7月施行された関連法では、 同じ事業所で2年間勤務した非正規労働者はそれ以降、正規労働者と同様の処遇を受ける。しかし、「2年未満で解雇した事業者への法的制裁がない」と指摘され、当初から反対論があった。

 また、韓国政府は非正規労働者の解雇増加を防ぐため、処遇改善に要する勤務期間を2年から最大4年にする方向で法改正を予定している。しかしそれが実現しても、非正規労働者の立場が抜本的に改善すると予想する向きは少ない。雇用問題は複雑な迷路と化し、日韓両国とも出口を見つけられない。


  こういう若い世代を正規雇用にすれば、購買力がアップします。目に見える給与が上がらなくても、正規雇用だと社会保険や年金の負担が少なくなるので、実質的に購買力が上昇することになるのです。
  やり方は簡単で、企業に一定の正規雇用を義務づけたり、派遣労働が可能な職種を限定すればいいだけの話です。
  そんな無茶言うな、カネがないから企業だって仕方なく正社員を削っているんだろう、という人は、日経新聞やフジサンケイビジネスの読み過ぎです(笑)。以下の記事をご覧下さい。

<グラフで見る韓国経済>留保率657%に上昇
http://www.toyo-keizai.co.jp/news/graph/2009/657.php

       韓国企業の内部留保率

  時価総額上位848社の内部留保率が、1997年通貨危機前の2倍以上の水準に高まった。金融情報機関のFNガイドによると、内部留保率は今年の第1四半期は657%に達した。財務構造は堅固だが設備投資などに消極的な企業が多い。内部留保率とは剰余金を資本金で割り100を掛けたもの。


  ご覧の通り、韓国の企業は平均して資本金の6倍強の内部留保をため込んでいるわけです。
  内部留保は現金ではなく、財務体質強化のためのものだ、素人はこれだから困る、というのなら、別のお金も出しておきましょう。

韓国企業の配当率、日本より高い
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=64351&servcode=300§code=300

昨年、国内大企業の配当が日本企業に比べて多かったことが分かった。 また、売上高に対する配当率は米大企業と同じ水準だった。

中央日報は韓米日3カ国の売上高基準10大企業(金融会社除く)の事業報告書などに基づき、04年度の配当性向などを調べた。 「配当性向」とは、当期純利益の何%を株主に現金配当したかをいう。
昨年の国別10大企業の平均配当性向は、米国(25.2%)、韓国(20.2%)、日本(17.3%)の順だった。 例えば100億ウォンの当期純利益があった場合、米国企業は約25億ウォン、韓国は約20億ウォン、日本は約17億ウォンを株主に配当したことになる。
国内10大企業のうち配当性向が最も高いのはKT(旧韓国通信、53.3%)で、米国最高のGM(40.2%)を大きく上回った。 10大企業の売上高に対する配当率は、韓国と米国がともに1.7%を記録、日本は0.7%だった。

配当性向では日本を上回り、売上高に対する配当率は米国と同じ水準を記録するなど、国内企業は先進国企業に比べ、そん色のない水準の配当をしているということだ。


>先進国企業に比べ、そん色のない水準の配当をしている

  こういう訳の分からないところで「欧米や日本と肩を並べたニダ!!」と勝ち誇るところがいかにも韓国メディアという感じですが、挙げた利益のうちかなりの割合が株主配当に「逃げている」ことは容易に察しが付きます。
  さらに、こういうお金もあります。

役員報酬とコーポレットガバナンス-東アジアのケース(労働調査評議会HPより)
http://www.rochokyo.gr.jp/articles/ab0608.pdf

・・・一人当たり平均役員給与を製造業の平均賃金で割った比率を三国で比較してみた。すると日本の上場企業の役員は、平均して一般従業員の約4倍の給与を受け取り、韓国は5.6倍, そして中国
は、7.6倍という結果が得られた。


  中国の搾取ぶり(笑)が凄いなという印象を受けますが、日本の会社役員より韓国のそれのほうがさらにたくさんもらっているということは言えます。
 
  こういったお金を削って従業員に回せば、それが消費活動を通じて国民経済の中で循環し、やがて企業の手元に戻ってきます。そのサイクルが太く、素早いほど景気がいいということになるわけです。

  問題は、理屈としてはそのような政策が妥当だということが分かっていても、なぜ実行されないのかということです。
  その答えは、上の「88万ウォン世代」のことを書いた記事の中に出ています。ここです。

>気になるのは、「就職は自分の責任」と考える傾向だ。

  この「傾向」が、自然発生的なものだと考える人は、相当なお人好しでしょう。
  日本のテレビ番組に、●「伊東家の食卓」がありました。私はほとんど見ていないのですが、塾で何か話をすると「それ昨日の『伊東家』でやってた」などという声が生徒から上がることがよくありました。内容を見てみると、日常生活で役に立ちそうな「裏技」を紹介する実用番組のようです。
  よくよく内容を見てみると、そんなのは爺さん婆さんや近所の人に聞けば済む話だろうというものが結構あります。しかし、そういう世代間、世帯間のコミュニケーションがないのが今の日本社会であり、その代わり人間同士をつないでいるのが、メディアが投げ与えた情報なのです。
  テレビの家庭普及率が98%を超える韓国でも、状況は似たようなものでしょう。そうなると、就職は自分の責任だという認識も、メディアを通じて定着したものなのでしょう。
  ここでいうメディアというのは、別にテレビだけとは限りません。「一方的に価値観を移植する装置」と考えれば、そういうものはたくさんあります。
  たとえば、学校は自分たちの存在意義を確かめたいので、不況になると「就職に有利になるためには就職に強い学校を出て、スキルを身につけなければいけない」とか「きちんと努力しなければ社会で取り残される」とかいったことを生徒にさんざん吹聴します。そうでもしないと、退屈な講義やくだらない授業を誰も真面目に聞こうとは思わないからです。
  また、予備校やカルチャースクールの広告は、資格があれば就職に有利だとか、今の時代は自分で自分に投資しなければダメだみたいなことを主張するはずです。
  そして、新聞というのはエリートの集まりですから、「(自分たちのように)高い能力を身につける努力をした人だけが生き残る価値がある」という前提で記事をかくでしょう。
  こうやってみると、別に誰かがメディアを操って意図的に洗脳活動をやらなくても、勝手に当事者がそれに近い活動を熱心にやってくれていることになります。もちろん、そういう方向が好ましいという働きかけはすると思いますが、ある国をデフレに追い込みたい勢力にとっては、本当に仕事が楽なことでしょう。
  つまり、現代のように様々なメディアが乱立し、それぞれが生き残るために必死な世の中になると、勝手に自己責任を強調するような方向へ社会が流れていくことになるのです。
  もっと有り体に言ってしまえば「みんなで豊かになろう」とか「富める者が貧しい者を助けよう」とか、「社会全体で支え合う仕組みを作ろう」とかいった美しいセリフは、言い出す人間は誰もいないということです。なぜなら、そんなことを言っても自分たちの利益にはならないからです。
  そうなると、「従業員の生活のために賃金を上げろ」という主張がどういう評価を受けるか、すぐに分かるのではないでしょうか。社会のコンセンサスとして採用される可能性はゼロです。マクロ経済の視点で見たら、有効な手段であるのは間違いなくても、そんな大きな世界は見えません。政府が非正規雇用を規制しようとしても、「たいした努力もしなかった派遣労働者が、なぜ労せず正規雇用になるのか」という声の方が強くなるに決まっています。また、スポンサー(大企業)の意向をくんだ新聞やテレビも、そういう声を好んで取り上げることでしょう。
  民主党と連立政権を組んだ社民党・国民新党は、労働者派遣の見直しを唱えていますが、私は正直何もできないと思ってます。おそらく、次の参院選で連立を解消(もしくは公明党と民主党が連立)することで、その辺の動きは立ち消えになってしまうのではないでしょうか。
  もっとも、それでも彼らが少数者(本当は多数者のはず)の声を代弁しておくことはムダではありません。少しは問題の提起になるからです。ただ、それが大きな流れを変えるには至らないだろうということです。

  そうなると、もう「財政支出の増加」や「減税」についても、答えが見えてしまうような感じがします。一応見ておきます。

  「財政支出の増加」は、国民新党が特に熱心に唱えている政策です。当然、「バラマキだ」「ザイゲンはあるのか」といった反論(というか、もう馬鹿の一つ覚えといってもいい)があるのですが、それについてはちゃんと裏付けがあります。相続税を非課税にした無利子国債の発行です。
  こうすると、現金で残しておくより相続させるのが簡単になるので、金持ちが進んで無利子国債を買うようになり、780兆円ほどある純貯蓄残高を吐き出させることができます。政府には利払いの心配がないので、この発行で吸い上げたお金を財政支出に回してもそれほど負担にはならないことになります。
  しかし、このような意見がメディアで顧みられることはほとんどありません。これも簡単で、「国からばらまかれるカネに頼って仕事を見つけるのはよくないことだ」という発想が、国民の間にほぼ確立してしまっているからです。
  これも根底にあるのは、「カネは自分の努力で得るものだ」という、自己責任原理です。非常に単純な話なので、誰でも理解ができます。
  韓国でも、超大型財政支出を行って景気を浮揚させようという考えが、あえなく頓挫しています。

「任期中に大運河推進しない」ラジオ演説で李大統領
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090629-00000006-yonh-kr

 李明博(イ・ミョンバク)大統領は29日のラジオ・インターネット演説で、大運河の中核は漢江と洛東江を連結することだとした上で、「現政権ではそれを連結する計画ももっておらず、わたしの任期内には推進しない」と明らかにした。

  (中略)

 こうした発言は、国民世論を反映し大統領選挙公約の朝鮮半島大運河建設は断念するものの、4大河川整備事業は大運河とは内容が異なるだけに狂いなく進めるとの意向を示したものと受け取れる。


  そして、その河川整備事業についても、かなりの批判が集まっています。

4大河川整備事業、2012年までに14兆ウォン
http://www.wowkorea.jp/news/Korea/2008/1215/10051637.html

洪水や日照りによる被害に備え、洛東江、漢江、錦江、栄山江の4大河川の環境改善に2012年までに14兆ウォン(約9458億円)が投入される。

政府はこの事業を、堤防補強やダム建設が主な事業内容で、朝鮮半島大運河事業とは無関係だと数度にわたり強調しているが、膨大な事業費を投じるだけでも大運河の基礎作業だという解釈も出ており、再び「大運河論議」が起きることが予想される。

  (中略)

国土海洋部は、4大河川プロジェクトが実現すれば、年間2兆7000億ウォンに達する洪水被害と年間4兆2000億ウォンの復旧費を削減できると見込む。また、新規雇用19万人と23兆ウォンの生産誘発効果が発生し、地域経済活性化にもつながるとみている。


>膨大な事業費を投じるだけでも大運河の基礎作業だという解釈も出ており、再び「大運河論議」が起きることが予想される。

  そういう論議を起こすぞ、というメディアからの警告です。
  2012年までこの計画が無事に運ぶかどうかは分かりませんが、李明博大統領は日本の二大馬鹿政党に比べればまだ頑張っている方でしょう。
  もっとも、これがどの程度総需要の増加に還元されるかは怪しいところです。なにしろ、韓国の労働力人口のうち約50%が非正規雇用(日本は35%)ですから、末端までカネが行き渡るかどうかはあやしいものです。
  日本の場合は、そこまで話が行く前に「バラマキだ」「無駄遣いだ」という連呼が始まってしまう上に、政治家がもうすっかり「そう言う考え」に染まってしまっています。今回政権を獲得してしまった二大馬鹿政党の片割れは、●45兆円もの需給ギャップに全く言及せず、国民への手当金は予算の組み替えでなんとかすると明言しています。財政支出のザの字もありません。彼らは自民党から政権を取るために、自民党の政治をバラマキだ利権政治だと非難し続けてきたわけで、それに反する政策を採るわけに行かなくなっているのです。

  最後の「減税」については、かなり厳しい状況です。
  昨今では、「高齢化社会になるにあたって、国の財政には限界があるから、どこかで増税(しかも、なぜか消費税率アップ)をするしかない」というのが、マスコミの世界では常識になってしまっています。消費税導入や税率アップと同時に法人税が減税されているので、大企業にとっては非常に都合の良い論理だということができます。そうなると、当然減税などとんでもない、ということになるでしょう。
  しかし、それだけではありません。やはりここでも、自己責任の論理が傷口を広げるような働きをしているのです。
  たとえば医療費なら、病気になるのは自己責任だから、医療費の個人負担が重くなるのは当たり前だという風潮が、国民の間に蔓延しています。後期高齢者医療制度など、まさにそういう論理を具体化しているものでしょう。さすがに、あまりにひどい仕組みだったので次の政権は撤回すると宣言していますが、「国にカネを出してもらうのは自己責任に反する」というような風潮は、いろんなところで顔を出しています。
  こういう中で、減税をして低所得者を楽にしようという主張をしても、「納税という自己責任を果たさないのか」という攻撃を簡単に許してしまいます。「だからどうした」と政治家が言えればいいのですが、なぜか今の政治家はそういう開き直りができません。亀井静香のような昔の自民党政治家ならできるのでしょうが、民主党にいる若いだけが取り柄の松下政経塾出身者を中心とした政策バカどもにはまず無理です。彼ら自身が、自己責任論理の持ち主だからです。

  こうやってみてみると、自己責任原理が根付いてしまっている社会では、総需要を政府の力で増やす政策を思い切って実行するのは困難だというのが分かります。
  そうなると、皆さんの中には「なぜ自己責任という考えがこれほど蔓延するのだろう」という疑問をお持ちの方もいらっしゃると思います。ここまで見てきたように、自己責任論理と逆行するような制度や政策の方が、はるかに総需要を高めるのに役に立つのにもかかわらず、なぜみんな自分たちを痛めつけるような考え方を持ち続けるのだろうか・・・と。

  それは簡単です。そもそも近代という時代が自己責任原理の時代だからです。

  1789年に出されたフランス人権宣言は、第1条で「人は、自由、かつ、権利において平等なものとして生まれ、生存する」と書いています。これは、日本のお馬鹿な教科書では、まるで人類の福音のごとく扱われていますが、実際はそうではありません。
  フランス革命を支援していたのは、富裕市民です。要するに金持ちです。日本で言えば経団連みたいな連中です。そういう金持ちにとって邪魔なものは何かといえば、「共同体」や「しがらみ」です。そんなものがあるせいで、金儲けができなくなってしまうからです。
  その元締めになっているのが王侯貴族だったので、連中をギロチンにかけ、革命の名の下に財産を没収するための論理が「人は平等」だったわけです。
  農村や町の居住区に見られるような共同体は、とても窮屈なものですが、そこにいれば誰かが世話を焼いてくれる可能性が高いという点で、安心して生きられる場所です。しかし、労働力として工場に叩き込んで働かせるには、そんな場所にいてもらったら困ります。だから、「共同体は時代遅れで窮屈だ」ということになりました。だから、フランス人権宣言では、「結社の自由」が保障されていません。
  そうやって共同体と切り離されても、自由なんだからいいじゃないか、というのが、人権宣言の論理です。自由なのだから、自分で生き方を決めて、自分で生活の基盤を作ればいいわけです。あとから政府に助けてくれというのは間違っているのです。
  どうですか、日本の若者やサラリーマン、あるいは●奥谷某のようなクソ財界人が、「ワーキングプア」や「ハケン」をバカにするときの言い草と、全く同じだということに気がつきませんか?
  人間が生活するということは大変なことなので、自分だけで死ぬまで安心できる生活基盤を築くのはかなり難しいことです。そういうことが分かってきたので、19世紀になると共産主義が台頭してきてしまいました。それを押さえ込むために、仕方なく国家は社会保障という手段を講じたわけです。
  そういう経緯がありますから、実は近代的な社会では、人が他人を助けるというのは例外的な行為なのです。これは個々人の善意とかそういう問題ではありません。社会の中に、そういうシステムが組み込まれているかどうかということです。
  社会保障のような相互扶助の仕組みは例外であり、本来は自己責任だ、人間が生きて死ぬのは自分の責任によるものだ。これが近代経済システムの根本原則です。
  じゃあなんで政府が存在しているんだということになりますが、金持ちや企業が仕事をしやすくするためです。人間の価値を貨幣という単純な単位に置き換え、国民を洗脳して使いやすいコマにし、持っている金は租税という形で巻き上げて軍隊や警察を作って近代経済システムにエラーが怒らないようにする。これが政府の役目です。
  共産主義が台頭したり、犯罪が横行して社会の生産性が下がったりするのは好ましくないので、一応社会保障という仕組みは置いています。しかし、それはあくまで「納税単位」や「労働力としての国民の品質を下げないためのものです。こう考えると、社会保障があまり必要なく、文句を言わずに働いてくれる外国人労働者の方が都合が良いというのは当然だということになるでしょう。
  一番よく分かるのが教育です。日本の学校ではどこでも「努力は大切です」と言います。しかし、その結果あぶれた人間をどう扱ったらいいか、そもそもその「努力」は生きていくために本当に必要なものなのか、そのことに答えられる教師はいません。学習指導要領にも書いていません。これは、とりもなおさず、日本国政府が自己責任原理を国民に教え込もうとしていることを示しています。、努力して真面目な勤労者にならなければ(つまり、国家を支える歯車にならなければ)、納税してくれなくなりますから、当然でしょう。
  悔しかったら金持ちになればいいのです。そのための努力はいくらでもできます。何をどう努力するかは自由なのですから、その努力を怠っているのに人に助けてもらうなど虫が良すぎます。
  これは、別に私が小泉純一郎の信者だから書けるないようではありません。近代がそういうものだからです。
  私が思うに、このブログをお読みの方も含めた日本人のほとんどが、政府が善政を敷いてくれるはずだと素朴に信じすぎです。実際そういう面もあったのですが、それはたまたま冷戦があったり、敗戦から立ち上がって総需要が拡大するしかなかった時代だっただけであり、運が良かっただけなのです。
  そういう意味では、中曽根政権以前の自民党政権や、構造カイカクに抵抗してきた自民党の議員達は、本当によく頑張ってきたと思います。自己責任が当たり前という仕組みを強引に修正して、国民にカネが行き渡る仕組みを維持し続けたのですから。
  そうではなく、国家のために国民が使い捨てにされている国がどれだけ悲惨か、我々は韓国を見れば理解できるのではないかと思います。そういう意味で、韓国の経済を見ることは、我々自身を知ることにつながるのです。

  今の経済の仕組みが続くうちは、もう今の韓国のような崩壊の流れは止まりません。なにかこういう悲観的なことばかり書いているような気もしますが、それ以外に結論がないのです。
  このブログもそろそろただ頭で考えただけの未来予測はやめて、近代経済システムというレールからいかに外れるかというヒントを差し上げられるような記事を書かなければいけないなと感じています。

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2009.09.13(Sun)

韓国の経済を見ることは、我々自身について知ることである(2) 

  韓国経済について考える●前回の記事の続きです。まだご覧になっていない方は、新聞記事への言及もあるので、一度目を通しておかれることをお勧めします。
  では、前回の朝日新聞の記事の続きを見てみましょう。そうはいっても、もう残り2行しかありません(笑)。

>政府も環境や医療福祉など成長産業の強化による雇用創出を打ち出す

  ここのフォントを引用記事の中でかなり強調しておきましたが、どうしてわざわざここに注意するんだ、雇用創出をやるというならいいじゃないか、という方も多いことでしょう。
  私がここを赤字にしたのは、韓国政府が実にまずい方向へ走り出してしまったということを言いたかったためです。もし、本当に「環境や医療福祉などの成長産業の強化」をやれば、韓国は間違いなくデフレの泥沼から抜け出せなくなります。

  「環境」や「福祉」を雇用対策の目玉に位置づけるのは、政府の経済対策としては重大な勘違いです。

  なぜそこまで言い切れるのか、それにはまず、そもそも現実社会でカネがどのように回っているか、基本的な形を知らなければなりません。これを知るには、経済学の知識は不要です。というか、むしろ邪魔です。常識的な判断力や理解力があれば、今からする話は十分理解していただけるでしょう。
  さて、景気が良くなるということは、どういうことでしょうか。これは簡単です。「企業や個人が消費活動を活発にすること」です。
  そして、どうすれば消費活動が活発になるのか。企業や個人(まとめて経済主体という)が消費に回せる手持ちのカネが多くなればいい、というのが答えです。当たり前の話ですが、持っていないお金は使えません。ただし、借金やローンという話はここでは置いておきます。
  この手持ちのカネのことを、「購買力」と言っておきましょう。
  ここが一番重要なのですが、その購買力というものは、自分で作り出すことができないということです。偽札を作るのは犯罪とされています。鋭い方なら、「じゃあ自然から物を作り出せる農業はどうなるんだ?」と思ったかもしれませんが、ここではその話は置いておいて、カネの話に限定しておきます。
  そうなると、我々経済主体が購買力を得るためには、誰かお金を流してくれたり、渡してくれたりすることが絶対に必要になるわけです。その国の購買力は、その国の経済主体に対して、誰がどれだけお金を流してくれたかによって決まります(総需要と呼んでおく)。
  総需要の量を決めているのは、

  「賃金」(企業→個人)

  「設備投資」(企業→企業)

  「貿易黒字」(外国→日本の企業・個人)

  「財政支出」(政府→日本の企業・個人)

  この四つの合計です。細かく専門的に見ればいろいろな項目分けができるのでしょうが、そういうものは理解の妨げになるので無視します。
  ここには「税金」が入っていません。当たり前ですが、税金は政府の手に渡るので、直接誰かの購買力を増やすものではないからです。税金が再び消費に使われるには、財政支出という形で世の中に投入される必要があります。
  また、「貯蓄」も含まれません。貯蓄は、消費に回せるカネを塩漬けにしておくことだからです。ただし、それが銀行という特殊な経済主体の手によって、融資という形で企業の設備投資や(間接的に)賃金に回る可能性はあります。いわゆる「信用創造」と呼ばれるものです。
  そうだとすれば、景気対策、すなわち消費の活発化、もしくは購買力の強化のためには、

1.賃金のアップ
2.設備投資の増加
3.貿易黒字の増大
4.財政支出の増加


  この四つと、

5.減税
6.貯蓄を消費に回す


  しかないということになります。これを韓国が目指している「成長分野での雇用創出」にあてはめてみましょう。
  せっかちな人は、「成長分野での雇用だから、1.の賃金のアップに当てはまるじゃないか」とお思いになったかもしれません。
  残念ですが、その理解は九分九厘間違いです。
  成長分野というのは、今までよりも注目されて伸びてきている分野という意味だと思うのですが、その需要というのは、今まであった購買力を右から左に移転しているだけです。
  たとえば、環境の分野で、太陽光発電を取り上げてみましょう。
  仮に、太陽光発電がエネルギー効率など諸々の面で経済効率が悪くないとしておきます。そして、韓国の家庭が続々太陽光発電を導入したとします。
  そうなると、確かに太陽光発電をてがける企業は売り上げを増大させ、そこにいる従業員の賃金が上がる可能性は高くなりますが、その裏返しで起きていることがあります。太陽光発電を使う分、既存の電力会社の電力が売れなくなっているということです。そうだとすると、おそらく電力会社は不要な設備を休眠させたり(メンテナンス会社に支払われる設備投資が減る)、合理化のためにリストラしたり(その従業員の賃金がダウン、もしくはゼロになる)という影響が出るでしょう。
  ここで、太陽光発電の会社が活況を呈し、しかも既存の電力会社が「被害」を蒙らないで済む条件が一つだけあります。それは、「電力需要それ自体が今よりも大幅に増大する」ことです。そうすれば、電力需要というパイの奪い合いがなくなり、仲良く共存することができるわけです。
  しかし、エコだのCO2削減だの世界的に鬱陶しくなるくらいうるさくなっている昨今、アホみたいに電気を使うことが許される雰囲気ではありません。だいいち、景気が悪いと経済活動が停滞しているのですから、電気の消費量だって減るはずです。だから、今上げたような幸福な条件はまずないといってもいいでしょう。
  要するに、他の食い扶持を奪っているだけだということです。総需要が増えないのに、競争だけ激化させても何の意味もないということです。普通に考えれば分かることです。それを地で行った小泉政権の構造カイカクを持ち上げている連中は、そういう基本的なことを何も分かっていないということです。

  もっと重大なことがあります。「成長産業」では、会社が儲かった分だけ高い賃金が払われるという前提がそもそも成り立たない可能性が高いということです。
  たとえば、前回の引用記事で成長分野だとされている「医療福祉」ですが、この分野がそもそも民間人の手がける産業として位置づけられたのは、ごく最近のことです。日本では、介護などの分野は、法律によって規制を受けた社会福祉法人(いわゆる社会福祉協議会)だけが活動を許されていました。
  それが、90年代から民間の営利企業も参入を許されるようになっていきました。介護保険制度の設立で新しい「成長産業」になった介護業界を見てみると、その問題点がよく分かります。1年前の記事ですが、現状は全く変わっていないと思われるのでそのまま引用します。

35歳で約260万円「生活できない」 介護職員署名に160万人集まる
http://www.j-cast.com/2008/03/08017587.html

「介護職員の生活を保障してほしい」という政府への請願に、約160万人もの署名が集まった。キツイ、キタナイ、キケンの3K職場で、給料も安い。年収は35歳で平均約260万円程度。「ほんとうに生活できない水準なんです」と訴えている。

介護老人への医療提供施設で構成される全国老人保健施設協会(全老健)は2008年3月4日、舛添要一厚生労働相と額賀福志郎財務相に「職員の給与を保障できる介護報酬の改定を求める陳情書」を提出するとともに、集めた署名を手渡した。署名を呼びかけたひとり全老健埼玉県支部の吉田昇事務局長によれば、「現場で働く介護職員の窮状をしてもらいたい。ほんとうに生活できない(給与)水準なんです」と訴える。

署名運動は、全老健埼玉県支部に寄せられた1通の手紙が発端になっている。「いまの給料のままでは子育ても、住宅ローンも払うこともできません。介護職員の生活保障を訴えていくことはできないでしょうか」。これに危機感を感じ、吉田昇事務局長は07年夏、署名活動をはじめる。駅・街頭での訴えのほか、介護職員の家族、医師会、自治会に理解を求め、まず埼玉県で約10万5000人分を集めて、同年11月に埼玉県に提出した。この活動が全国に波及、08年2月末までに約160万人分の署名が集まった。

老健介護施設の介護職員とは、医師や看護士、介護ヘルパーなどの資格を持たずに、介護の「現場」で働く人をいう。全老健埼玉県支部によると、介護職員の平均年収は35歳で約264万円。給与所得者の平均年収(約434万円、06年国税庁調べ)と比べて約170万円も低い。低賃金なうえに、食事、入浴、おむつの取替えといった老人介護の職場は重労働で、さらにはキツイ、キタナイ、キケンの3K職場で人気がない。

パートの時給も800円前後で、スーパーやコンビニなどに太刀打ちできないし、最近は大手企業が初任給を引き上げて人材確保に力を入れているだけに(引用者注:まだ「リーマン・ショック」の前の話)、職員を確保するだけでも大変な苦労のようだ。

吉田局長は「老健保健制度ができて、ようやく20年なので勤めている施設も新しく、職員も若い人が多い。事業が軌道に乗らず、ベースアップもむずかしいのが実態です」と説明する。あまり知られていないが、老健介護施設は特別養護老人ホームと違って国からの補助金もない。土地や施設は銀行からの借入金でまかなわれているので、「借金の返済に追われ、人件費にまわす余裕はない」という。

厚生労働省が2月21日に公表した「介護給付実態調査月報」(07年12月審査分)によると、介護サービスの受給者は全国で292万5000人。受給者一人あたりが介護施設や介護サービス業者に支払っている費用は月間17万4700円に上る。比較的高く見えるが、吉田局長はこれが「実態に即していない」という。

こうしたデータは、全国約3400ある老健介護施設がそれぞれ厚労省に提出している。ただ、老健介護施設は、認知症などの病状があり、リハビリテーションなどの医療を必要としている老人の介護施設なので病院やグループホーム、在宅ケア・サービス事業者などの医療法人が併営しているケースが多い。そのため、老健施設単体の状況がきちんと伝わっていないのだという。「老健施設の実態をしっかり伝えていないことにも問題はあるが、(厚労省側も)そちらが提出したものをまとめているとして、本当の実態を見てくれない」(吉田局長)と、その対応には不満げだ。


  医療福祉というのは、所詮介護保険や医療費の予算内でやらざるを得ないもので、初めから総需要がタイトに設定されていることが通常です。そんな中で、個々の経済主体が努力をしたところで賃金を上げようがありません。
  もっとひどい言い方をすると、経営者の側が「この業界はこういうもんだから」と、低賃金を正当化できるという可能性すらあります。●この事例のような悪徳企業は、福祉業界だからというのではなく、新興業界だからこそ横暴を極めることができたということもできるでしょう。
  環境の分野でも、結局は同じことです。初期段階では効率が悪いため(おそらくずっと悪いままだろうが)、政府が補助金を出すという形で成長を促すしかありません。それをいいことに、低賃金を正当化して、税金を猫ばばする企業が出てくる可能性は、残念ながら非常に高いといえるでしょう。

  結局、経済を活性化させたければ総需要を増やすしかないということです。

  上に挙げた方法の実現度合いを「順不同で」考えてみると、2.については、個別の企業の判断によります。減税という形で促すことはできますが、効果はかなり限定的にならざるを得ません。おそらく、今まで多額の投資を続けている企業の経常利益が改善するだけに終わるでしょう。
  3.は、正直他国も似たような需要低迷の状況にあり、しかも日本はいまでさえ大きな貿易黒字状態なのですから、これ以上伸ばしてもムダだということができます。
  また、6.については、預金が財産だと思われている以上、その放出を強制することが国民の大多数の理解を得られる可能性は非常に低いでしょう。

  では、残った三つ、すなわち、  

1.賃金のアップ

4.財政支出の増加

5.減税


  は、果たして可能なのか。その辺を探ることで、このシリーズを締めくくりたいと思います。

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2009.09.06(Sun)

韓国の経済を見ることは、我々自身について知ることである(1) 

復調韓国、雇用は不振 サービス業に不況直撃
http://www.asahi.com/business/topics/economy/TKY200909050265.html

 日米欧に先駆けて景気回復が進む韓国で、「雇用なき回復」への懸念が高まっている。公共部門の一時雇用などで見かけの情勢悪化は一服したが、民間の雇用創出は進まない。経済構造の変化や急速な高学歴化にも対応が追いつかず、雇用不振の解決は長期戦の様相だ。

■対策、一時しのぎ

 「韓国の4~6月期の経済成長率は、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でトップ」。韓国でこんなニュースが一斉に伝えられた。

 3日発表された4~6月期の実質国内総生産(GDP、暫定値)成長率は前期比2・6%増。7月の鉱工業生産は前年同月比でも10カ月ぶりのプラス。リーマン・ショック前の水準を上回った。

 だが、肝心の雇用がついてこない。「改善」もみられるが、これには事情がある。

 ソウル近郊の仁川市。古くからの住宅街から坂を上った一角で8月下旬、男性数人が地面に板を並べ、散策路をつくっていた。市内に住む李基浩さん(60)は「先行きに不安はあるけど、今はこの仕事がある。感謝しないとね」。

 政府が6月から始めた「希望勤労」事業だ。経済危機で仕事がなく生活の苦しい低所得層に公共の仕事を提供、月約83万ウォン(約6万2千円)分を現金と商品券で支給する。同じ日、ソウル西部の麻浦区でも、地元の50~60代の女性らがごみからペットボトルなどを仕分けていた。

 韓国政府は金融危機後、希望勤労以外にも雇用対策を矢継ぎ早に繰り出してきた。賃金削減などで雇用を維持するワークシェアリング推進や、公共機関や企業で若者が一時就業するインターンの拡大などだ。リストラで失業者があふれた97~98年の通貨危機でなめた辛酸が背景にある。

 その結果、6月の就業者数は前年同月比でわずか4千人増とはいえ、7カ月ぶりのプラス。7月も7万6千人減と、20万人程度の減少が続いた5月以前より改善した。減少幅が100万人を超えた98年当時より傷は浅い。7月までの失業率も4%程度。一気に6~7%を超えた通貨危機時よりは低い。

 当面の危機は、ある程度抑え込んだ。だが、結局は一時しのぎにすぎない。

 2月に大学を卒業して求職活動中の男性(26)は「インターンで働く友人をみても、数カ月で終わる仕事では学ぶこともない」と冷ややかだ。6カ月間の希望勤労も清掃など単純作業ばかり。働く人も50~60歳以上が多い。職を失った非正規職の若者や働き盛りの30~40代の「希望」にはなっていない。

 6月以降の就業者数も、希望勤労による25万人程度の増加をのぞけば、実質的には減少幅が拡大。韓国政府関係者も「雇用なき成長が懸念される」と認める。

              韓国の実質経済成長率と雇用の推移

■高学歴化、求人にズレ

 景気とともに業績が回復しても、企業が採用拡大に動くまでには時間がかかる。だが韓国開発研究院の兪京濬・財政成果評価室長は「非正規職の増加や、輸出が好調でも雇用が増えないなど、雇用不振は構造的問題」と指摘する。

 韓国でも先進国と同様に、雇用創出力の低下がじりじりと進む。製造業は工場の海外移転に加え、液晶パネルや半導体といった装置産業は必要な人手が少ない。「主な輸出製品で、部品などの輸入依存が高まっている」(韓国銀行)という問題も抱える。

 就業者の約6割が働くサービス業は、小売りや飲食業など零細自営業者が多い。就業者全体の約3割を占める自営業は通貨危機後の失業者を吸収してきたが、昨年来の内需不振で廃業が相次いだ。

 既存の受け皿の揺らぎに加え、深刻な若年失業問題は急速な高学歴化も要因だ。

 95年に5割を超えた大学進学率は08年には8割超と、5割強の日本を大きく上回る。雇用情勢が悪化する中、少しでも良い職を、という意識が強いためだ。

 だが、「大卒」の肩書を手にする人が増えても、期待する好待遇の職場はその分増えていない。7月の29歳以下の若年失業率は前年同月比1・1ポイント高い8・5%。統計上の失業者以外にも就職をあきらめたり、資格取得などで「就職準備中」だったり、事実上失業状態の人も多い。

 8月末、ソウルで開かれた就職面接会。受付に長い行列ができ、各ブースでは参加者が熱心に面接を受けていた。「条件さえあえば、早く決めたい」と焦る若者も多かったが、ある中小企業の担当者は明かす。「経験不足なのに期待する賃金水準は高い。大企業志向も強く、すぐやめる心配もある。どうしても求人と求職にミスマッチがある」

 政府も環境や医療福祉など成長産業の強化による雇用創出を打ち出す。良質の雇用をどれだけ生み出せるかが問われるが、成果は未知数だ。


  このブログはよくある朝鮮・中国叩きのブログではないのですが、それでも韓国についての記事を書くと、ブログ拍手なるものの数が増えます。賢明な読者各位には、特定の外国が不幸になるといううわっぺりの結論だけを捉えて喜ぶような低次元な人間にならないように願っております。
  さて、今回の記事ですが、かなり重要な問題提起を行っています。たとえば、ここです。

>4~6月期の実質国内総生産(GDP、暫定値)成長率は前期比2・6%増。

  経済成長したのに、なぜ雇用がついてこないのでしょうか。これを理解するには、経済成長率というものの持つ意味を理解しなくてはいけません。

  日本の実質経済成長率(内閣府による)

  実は日本でも、実質経済成長率が上昇していたのに、雇用がいっこうに回復しない時期がありました。小泉政権の中盤から安倍政権の時代にかけて(2006~2007年)です。上のグラフの一番右は、いわゆる「リーマン・ショック」があった2008年ですが、そこまでは確かに年2%程度の「経済成長」をしています。
  しかし、この「実質」というのがくせ者です。この数字は、名目の経済成長率に対して、物価指数の下落などを差し引いて修正したものなのです。
  理屈としては、経済成長がそのままで、物価だけ下落したとすれば、国民経済全体の購買力(ものを買う力)は相対的にアップしたことになるわけですが、裏を返せば、デフレが悪化して物価がどんどん下がれば、本当の経済力(名目GDP)がマイナスになっても、「実質的に」プラスになったと評価されてしまうのです。
  要するに、実質経済成長率がプラスになったからといって、国民が手にする賃金その他の購買力が向上しているというわけではありません。このへんは、マスコミも(意図的かどうかは分からないが)まぜこぜにして報道しているので要注意です。

  記事の方の注釈を続けましょう。韓国政府は、かなりアクティブに雇用対策を打ち出しているようですが、その中身には疑問符をつけざるを得ません。

>賃金削減などで雇用を維持するワークシェアリング推進

>公共機関や企業で若者が一時就業するインターンの拡大

  ワークシェアリングは、ひところ日本でも話題になりましたが、結局同じパイを分ける人数が増えているだけで、国民全体の購買力の拡大には寄与していません。
  また、インターンがいくら拡大しても、通常の雇用ではないので、結局また職を探さざるを得ないという状況は変わりません。
  もっとひどい言い方をすると、こうやって雇用を確保することで、かえって労働力がだぶつく結果を生み、数字の上での賃金は低下していく可能性すらあります。別にこの辺は統計など取らなくても、必要とされている雇用を上回る労働力が提供される(労働力のインフレ状態)なら、当然に起こりうることということができます。
  確かに、「失業率」という数字は劇的に改善するのでしょうが、問題は雇用の質です。極端な例ですが、いくら完全雇用を達成しても、ほとんどの人間が年収100万円しかもらえないのだとしたら、消費活動は活発にならず、景気はよくなりません。韓国がやっていることは、これと全く同じことです。
  こういう場面では、「職を選んでいるからあぶれるのだ」とか「努力しない人間が悪い」という、ネット右翼や小泉・竹中信者の決めゼリフ(というか、それしか言えない)は全く意味がありません。椅子取りゲームをしようと言っても、椅子が竹ひごでできている椅子になど、誰も座ろうとは思わないでしょう。
  さらに、従来のサービス業についても、

>内需不振で廃業が相次いだ

  ここらへんも、バブル崩壊後の日本とよく似ています。
  ●前の記事でも述べたように、もう韓国にはまともな内需と呼べるようなものは残っていません。もともと貿易依存率が70%を超える外需依存体質だったのですから、当然といえば当然です。

>「経験不足なのに期待する賃金水準は高い。大企業志向も強く、
>すぐやめる心配もある。どうしても求人と求職にミスマッチがある」

  これも、日本とよく似た状況です。親の世代が経験して、当たり前のことだとして継承された価値観が、「時代の変化」と齟齬を来しているのです。
  私もそうですが、「最悪でも結婚して家庭を持ち、マイホームとはいかなくてもマンションくらいは持てるのではないか」と思っていた時期もあります。今もそういう価値観の残りカスみたいなものがあり、頭を悩ませることがあります。
  これを、「考えが甘い」と一概に切って捨てることはどうかと思います。たとえは悪いですが、「天皇陛下は現人神ですよ」と子供の頃から教わってきた人が、ある日突然天皇陛下に「すいません。私じつは人間でした」と言われたら、わけがわからなくなるでしょう。同時に、「いや、それでも自分にとって天皇陛下は雲の上の存在だ」と信じようともするでしょう。戦前を知らない子供や孫の世代が「テンノーってさあ」などと口にするようになっても、皇太子が民間から嫁さんをもらっても、皇族が東京都の職員の家に嫁いで普通の主婦として暮らしていても、そういう観念はなかなか変わらないものだと思います。
  そこをどうやって軟着陸させるか、もっと有り体に言えば、諦めさせるか、というのは、社会の安定にも関わる問題です。「負け組」が生まれるのは、あるべき自分と、今の自分にあまりにも乖離があるからです。このへんは、もっと政治家や官僚が真剣に悩むべき問題でしょう。
  しかし、最近私は、この辺についてはほぼ完全に諦めました。政府という存在に、現代の経済の仕組みが生み出す問題の根本的な解決は不可能だという確定した理解が得られたからです。

  すみません。この辺で次回に続きます。上記の引用記事で、私は妙な場所を大きなフォントにして強調していますが、その謎解きも次回行います。

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2009.04.30(Thu)

【KY】「パンデミック?なんですかそれは?」と、将軍様がおっしゃっています 

新型インフル警戒レベル「5」に上げ…WHO
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20090430-OYT1T00448.htm

 世界保健機関(WHO)のマーガレット・チャン事務局長は29日夜(日本時間30日朝)、緊急記者会見を開き、新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)の感染拡大を受けて警戒レベルを「フェーズ4」から世界的大流行(パンデミック)の一歩手前を意味する「フェーズ5」に引き上げると発表した。

 感染が確認されたり疑いがあるのは30日、メキシコや米国をはじめ34か国・地域に広がっており、大流行に向かう流れがいっそう強まったと判断、警戒レベルを上げて各国に対策強化を求めることにした。

 チャン事務局長は「ウイルスは変異を起こしやすく、性質は予測がつかない」と述べ、今後、感染力や毒性が強まる可能性を警告。記者会見に同席したケイジ・フクダ事務局長補代理も、世界的大流行を認定する最高レベルの「フェーズ6」にいつ移行しても不思議でないとの見方を示した。

 WHOは27日に警戒レベルを「フェーズ3」から「フェーズ4」に上げたばかり。チャン事務局長は、わずか2日で「フェーズ5」への再引き上げを決断した理由について、メキシコに加え、米国でも人から人への感染が持続的に起きていることが確認され、条件が満たされたためと説明した。

 事務局長は、各国政府に警戒態勢の一段の強化を求める一方、〈1〉ビジネス、サービス、人の移動を止めるような勧告をしない〈2〉十分に調理した豚肉は食べても安全だ――などとして、経済や消費活動に影響が出る過剰反応を慎むよう促した。

 新型インフルエンザにかかってもメキシコ以外ではほとんど死に至らずに回復していることから、現段階ではウイルスは「弱毒性」の可能性が強い。WHOが渡航制限などに慎重な背景には、「強毒性」鳥インフルエンザを前提に設けられた警戒レベルに基づく対応措置の画一的な適用は不要との判断もある。


  いわゆる「豚インフルエンザ」という伝染病ですが、我が国の政府もさすがに「事態を静観して」などと言っていられる状況ではないようです。

政府、水際対策徹底を確認 官房長官「冷静な対応を」
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20090430AT3S3000730042009.html

 政府は30日午前、世界保健機関(WHO)の警戒水準引き上げを受けて新型インフルエンザ対策本部の幹事会を開き、現在の水際対策の徹底と、国内発生に備えた対応を急ぐ方針を確認した。河村建夫官房長官は記者会見で「国民の皆さんには政府が発する情報を聞いてもらい、警戒を怠ることなく落ち着いて冷静に対応してほしい」と呼びかけた。

 河村長官は「ただちにこれまでの対処方針を根本的に変えることはない」と述べた。メキシコへの渡航延期勧告について、他の発生国に拡大することは現時点で考えていないと指摘した。5月初めの麻生太郎首相のチェコやドイツ訪問の日程も変更はないと語った。

 中国の北京を訪問している首相は30日朝、河村長官に電話で「極めて重大な事態であり、政府は総力を挙げて取り組む必要がある。しっかりやってほしい」と伝えた。首相は同市内で記者団に「やるべきことは決まっている。それをきちっとやって万全を期すように指示した」と話した。


>メキシコへの渡航延期勧告について、他の発生国に拡大することは現時点で考えていない

  まあ、今の政府や与党は「観光庁」を作ったり、他国とEPAやFTAを早期に締結しようとしていたりと、グローバル化をどんどん推進しているのですから、外国に出て行くなということは出来ないでしょう。アメリカや中国で病気が流行しても、ビジネスマンの渡航は認めざるを得ないはずです。
  まだ日本人の罹患者が認められていないのが幸いですが、今後感染地域が拡大したらどういう対応をするのか、見物です。

  このブログは細かい専門知識は扱わない(管理人の能力からして扱えないという噂もある)ので、フェーズ4とフェーズ5の違いがどうだとか、なんで4月30日現在死者が出ているのがメキシコ人だけ(アメリカでの死亡1名もメキシコ人)なのかとか、そういうことは扱いません。そんなの、WHOの職員でもない我々が知ってどうするんでしょうか。
  別にお願いしたわけでもないのに「グローバル化」してしまっている今の世界では、日本にもこの豚を媒介した新型ウイルスが侵入してくることは確実です。死者の出方からして、過度に警戒する必要はありませんが、お年寄りやお子さんなど、抵抗力が弱い人は十分に注意するべきです。大きなストレスや継続的な疲労も免疫力を弱めるので、あまり抱えないようにした方がいいでしょう。
  さて、そういうわけで、国連や各国政府を巻き込んで大騒ぎになっているわけですが、そうでもない国があるみたいです。

北朝鮮「国連の謝罪なければ核実験とミサイル発射する」
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=114760&servcode=500§code=500

北朝鮮外務省は29日、ミサイル発射を受けた国際社会の対北制裁の動きに対して「国連安全保障理事会が謝罪しなければ自衛的措置として核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射試験をする」と明らかにした。官営中央通信によると北朝鮮は、外務省スポークスマン声明で「安保理は朝鮮民主主義人民共和国の自主権を侵害したことに対してすぐ謝罪し、不当に差別的採択したすべての反共和国決議と決定を撤回しなければならない」と主張した。

外務省は「6カ国協議を通じて我が(北朝鮮)を武装解除させようとしていた目的を達成できなくなると、今後は物理的な方法で我々の防衛産業の息の根を止めるという妄想を抱いている」と非難した。安保理が24日、朝鮮鉱業開発貿易会社など北朝鮮企業3カ所に対する制裁を決めたことによる反発だ。外務省はまた「軽水炉発電所建設を決め、初工程として核燃料を自国で生産・保障するための技術開発を始める」と付け加えた。


  このブログは●この記事●この記事等をご覧いただければ分かるように、「北朝鮮=国際社会をかき乱すならず者国家」という産経新聞的な北朝鮮観を否定しているわけですが、それにしてもこの発言には目を丸くしました。「国連も各国の政府も、おまえらを構ってるゆとりなんかねーんだよ」と、誰もが思う、絶妙すぎるタイミングの発言です。

  しかし、これは人民を領導し米帝の侵略と毅然として戦う金正日国防委員長の一流の皮肉なのかもしれません。

  すなわち、北朝鮮という国は、周囲を全て敵国に囲まれ、ある時はソ連を利用し、ある時は日本からパチンコ資金をひっぱり、またある時は中国に原油をせびったりして、絶妙のパワーバランスを保ってきました。
  近頃、特に隣接する中国の朝鮮族自治区との貿易が多くなってはいますが、基本的に他国とは交流を避け、グローバリゼーションに背を向けている国です。人民を世界最低レベルの生活に陥れて将軍様は寅さんの映画を大画面で楽しんでいるというのはいただけませんが、それを抜かせば、孤立しながらよく頑張っているということもできるでしょう。
  そういう国ですから、名前も場所も知らないような国との貿易がいつのまにか活発になっていたり、知らないうちに毒入り食品を送りつけられたりといった、グローバル化の負の側面(というか、正の側面なんて各国の庶民はほとんど享受できない)とは無縁でいることができるわけです。
  そうなると、この空気が読めない発言も、「おまえら、豚から出てきた病気(俺も昔は豚っぽかったけど)に右往左往してるけど、他国に後ろから刺される覚悟もないままグローバル化なんてしちゃってるからだろ?病気は怖いけどビジネスやサービスを止めるなだって?そんな都合よく物事行くと思ってるなんて、おまえらバカじゃないの?」という、偉大なる将軍金正日国防委員長閣下のメッセージと読むことができるのではないでしょうか(笑)。

  と、まあ、今日はネタ記事みたいになってしまいましたが、よくない事態が起こっても、みなさん悲観的にあれこれ考えるのはとりあえずやめておきましょう。日本人が自分で自分を不幸のどん底にたたき落として、経済がいよいよデフレ全開になってしまえば、喜ぶのは誰か・・・このブログをご覧になっている方々ならすぐに思いつくはずですから。

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